販売者冥利

今年一番嬉しかったことを書きます。

  
お蔭様で、今年は最初のアルバム『風邪をひかない』を発売できた年でした。結構な数ミュージックビデオをご覧いただいたり、気にかけていただいたり、そして少しばかり購入もしていただけました(購入していただいた方、どうもありがとう!)。
  
その流れの中で忘れられないのが、購入していただいた方からの手紙。その方は7年前にほんの一瞬だけ顔を合わせたことがある方(あるイベントの主催者で、僕は恥ずかしながら御名前も顔も覚えていなかった!)。
  
手紙の外観からして、衝撃的でした。
展覧会のチラシを折ってできた封筒の上に、洒脱な字体でかかれた宛名。そして絵は…ギターを奏でている私(ですよね?)と裸体の女性(フィクションですよもちろん)。

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もうこの時点で自分が送らせてもらったCDと特典ノートを凌駕されていて、至極恐縮の至り。
  
とどめには作品の感想をメールでくださいました。曰く、
  

「風邪をひかない」はわが家の名盤となりました。
レコードだったらもう擦り切れるくらい聴いてます。

 

…こんな出来すぎなことってあるんか!と叫びだしそうになったのを必死にこらえて、返信を書きました。
  
音楽に専心されている方と比べれば、かなりぐだぐだな地下活動をしている僕にとって、身に余りすぎる言葉をいただいたこと。これが今年一番嬉しかったことでした。
  
来年の終わりか、再来年か、みなさんがまた忘れたころに次の作品を持って来ようと思います。曲はいろいろ生まれつつあるので、時折ここで公開する予定です。
  
長い物語となりますが、このページを来訪していただいたのも何かの縁、今後とも見に来ていただけると嬉しいです。

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shouchu-record.hatenablog.jp

2015年に発売された音楽で良かったものベスト10

2014年12月の音楽振り返り記事で、「まだCDも聴いている1年でした。ただ、インターネット上で出会う音楽もそうとう多くなったことも事実。ある日タガが外れたら一気にドカーっと風景が変わる予感はあるなあ。」と書いていて、その、「ドカーっ」が来た1年でした。今年は実質的な音楽配信サブスクリプションサービス元年だったなあ。AWA、LINE MUSIC、Apple Music、Google Music、それにくわえて、映像系も色々ありましたね。Netflix、Amazonプライムビデオ、等々。それでまあ、結構Apple Musicにお世話になっているのだけど、ここではとりあえずはCDでも聴くことができる作品を中心に書きます。

■1 Sufjan Stevens / Carrie & Lowell

キャリー・アンド・ローウェル

キャリー・アンド・ローウェル

 

 「フォーキーなあいつが帰ってきた!」と巷で噂になった1枚。しかしとっくりと中身を覗いてみると、もはやフォークを飛び越えてグレゴリアン聖歌のようなメロディがバンジョーを肴にひたすらと続く。古ぼけた写真のジャケットが示すように、これはどこかに置いて枯れた物語なのかなあ、と。

■2 Donnie Fritts / Oh My Goodness

Oh My Goodness

Oh My Goodness

 

ドニーフリッツ72歳、4枚目の新作。声が泣いている、で、こちらも泣けてくる。オーマイグッドネス。おやおや、私の良心、一番良い部分ははどこへ行った。良いことも悪いことも、色々あった。石が水に洗われてちょっとずつ形を変えていくように、そんなあれこれに削られて研ぎ澄まされた声。このアルバムはそんな声がひたすらに主人公。支えるストリングスも素晴らしい、こんな優しいのが終始続くのか。ジョニーキャッシュのアメリカンシリーズが好きな方なら間違いない。というか、自然にこのレインボウ・ロードにたどり着いているはず。

■3 盛島貴男 / 奄美竪琴

奄美竪琴

奄美竪琴

 

視界がぼやけてくる演奏。65歳でデビューする奄美の海賊。奄美竪琴の制作と販売、弾き方の指南までを奄美大島で続ける、独立自営の人。どの画像を見ても「半袖UネックTシャツ+作業ズボン 」の身なり(アルバムのジャケ写も!)。ジョブズザッカーバーグに並ぶ「自分だけのドレスコードを持つ巨星」の列に加えたい。ちなみに販売元のウサトリーヌ・レコード。日本のウェイン・ショーター(と僕は思っている)、石田寛和を中心とするジャズプロジェクト、trance katz(トランスカッツ)を擁するレーベルとして結構前から知っていたので、その奇妙な縁が嬉しい。

 ■4. Jeff Lynne's ELO / Alone in the Universe

グラフィックデザイナー長岡秀星が描いていた孤独な宇宙船が少年の前に立ち戻るジャケットからしてずるい。ジェフ・リン曰く、「音楽は人生に強力な影響を及ぼすんだ。1つのいい曲があれば、人はこの宇宙で孤独感をずっと味わずに済む。僕はそういう曲を作りたいんだ。」。

下は今年の6月に亡くなられた長岡秀星の仕事をまとめた記事。ウェブマガジンPitchfolk等で書いている音楽批評家のNate Patrin氏の手によるものの、翻訳。冷静に振り返っているけれど、底に流れる熱いものがビシビシ伝わってくる文章。

■5. Vinicius Cantuaria / Vinicius canta Antonio Carlos Jobim

Vinicius canta Antonio Carlos Jobim~ヴィニシウス、ジョビンを歌う

Vinicius canta Antonio Carlos Jobim~ヴィニシウス、ジョビンを歌う

 

「ヴィニシウス、ジョビンを歌う」。セルソ・フォンセカがギター、で沢田穣治がコントラバス、これ以上なにを望んだらいいのやら。もともと大人の音楽だったジョビンがさらに大人に。夜もいよいよ深まる。

■6. Vance Gilbert / Nearness Of You

Nearness of You

Nearness of You

 

私のお気に入りの弾き語り名手。去年からFacebookでフォローしているんだけど、結構頻繁に自宅で弾き語りしている動画を投稿してくれて嬉しい。「When a Man Loves a Woman」を追悼でやってくれたときは涙腺が崩壊しました。新作はジャズ・スタンダード弾き語り。アルバムタイトルの「Nearness Of You」が最高。試聴はこちらから。

■7. Menahem Pressler / Mozart: Piano Sonatas

Mozart: Piano Sonatas

Mozart: Piano Sonatas

 

ジャケット写真を見てください。どうですかこの破顔の笑顔。もうね、お爺ちゃん萌えですよこれは。Apple Musicでずっと彼の演奏を聴いていると、不思議と短調な曲も哀しい気分に陥らず、すっきりと聴こえる。92歳の弾くモーツァルト。下に掲載したPVの最後でプレスラー爺さんは云う:「あなたのなさっていることを愛し、そこに魂を込めなさい」。これってNetflixで久方ぶりに観た『ニュー・シネマ・パラダイス』にも通ずる。事故で盲目になった映写技師アルフレードが、青年になった主人公トトと今生の別れをするときに、トトの耳元でかぼそく、少しだけ諭すように放つこんな言葉:

自分のすることを愛せ
子供のとき映写室を愛したように

では泣けるPVをどうぞ。

■8. yojikとwanda / フィロカリア

フィロカリア

フィロカリア

 

インターネッツが結んだ奇跡の二人組。そろそろ「NHKみんなのうた」に取り上げられるに違いない違いない。詳細は愛に溢れている販売元の新作紹介記事「yojikとwanda、『フィロカリア』を聴く前夜。」を熟読玩味してください。

アルバム発売記念のライブ@神保町試聴室にも行ったのだけれど、これがとんでもなくソウルフルだった。「フィロカリア」とは「美への愛」というのが語義らしいけれど、ライブを見たらなんてことはない、「フィロカリア」の「フィ」は「フィリー・ソウル」の「フィ」だった。丁々発止のyojikとwanda、2人の掛け合いはあきれたぼういずのようだった。家族で楽しむバラエティ番組(つまりちょっと昔の紅白歌合戦)のように笑いあり涙あり熱狂ありの2時間半ちょい過ぎだった。

■9. Justin Bieber / Purpose

Purpose

Purpose

 

紅白歌合戦もすっかり大衆性を失ってきたこの時代に、「2010年代のエルビス」の光輪と重荷を背負うのは彼しかいないでしょう。あ、エルビスの部分はマイケルでも、プリンスでも、ポップスターがあてはめられればなんでもいいです。「What Do You Mean?」、いい歌だなあ。

■10: Bob Dylan / Shadows in the Night

Shadows in the Night

Shadows in the Night

 

ただただ、好き。ディランによる正しいシナトラ・カバー集。ますます冴えわたる猫ダミ声も最高潮。カラオケの採点機にかけたならアベレージ60点も超えないだろうが、英国ではチャート1位ですから。いかに客観性といわれるものがあてにならないかの証明でもあり、日々成長していくアルゴリズムとの闘いでもある(言い過ぎ)。夜に影は映らない。師走感が高ぶるこの歌でお開きとしましょうか。

長々とお付き合いくださりありがとうございました。時期も丁度良いのではてな今週のお題「マイベストエントリー」として投稿してみます。気に入ったら広めてくださると嬉しいです。

 

去年のベスト10

一昨年のベスト10

 

私の恥ずかしい写真を公開します。スープをめぐる冒険。

私の恥ずかしい写真を公開します。

今年の私の裏抱負は「毎月1つ新しい具材を使ったスープを作る」。1月のスープを作ったときの料理歴は生涯総計10日くらい。そこからは派手にやらかし、自分で振り返るのも汗が出てくる無骨なスープぶりだったのが、11月頃から(最近です、ええ)具材の組み合わせを変えて少し見られるものになったような気が…?どうぞご笑覧を。

これらを決して料理自慢写真としてとらないでください。これらは苦闘と成長の冒険譚です。誰ぞか料理のエキスパートがいれば一つ必殺技を伝授してくれるとありがたいです。来年もよろしくお願いします。

1月のスープ:まだ名前は無い

料理歴生涯総計10日くらいでも、鍋キューブ様は救ってくださる。材料は鶏肉ささみ、人参、大根、白菜、水。さっぱりで美味し。

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2月のスープ:ごろっとカボチャのスープ

鍋キューブとの相性は…微妙だった(おいしいけど)。両雄並び立たずかなあ。

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3月のスープ:豆乳鍋キューブをベースにごろっとジャガイモと豚肉のスープ

野菜っ気が全然ないことに完成間近に気づき、急いで大葉を投入するもやらかした感じに。でも旨い。鍋キューブから離れられない。

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4月のスープ:茅乃舎ダシベースでソーセージと人参玉ねぎのポトフ

野菜っ気をだしつつも肉系から離れるのはまだ恐い。ダシでなんでも旨く感じる。だし、恐るべし。「茅乃舎」で検索するとめくるめく新世界が広がるので注意されたし。f:id:gati:20151217222914p:plain

5月のスープ:イエロームング豆のスープ

2つの作業を同時並行に行う、という高等技に挑戦。豆を煮る用と、ソース用(クミンシード、ターメリック等)と。玉ねぎとミニトマトも加える。「クックパッド ムング豆」で出てきたレシピを激しく参照。

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6月のスープ:コンソメベースのポトフ

水量400cc、コンソメ1個。で、適当な材料をごろごろ入れればなんでも美味しい。沸騰してきたら蓋をして弱火で10分、で、更に弱火にして10分。これがいまのところの常勝パターン…な気がする。

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7月のスープ:意地悪な魔女が作ったような色合いのスープ(真の名は夏のスープ)

味も魔女っぽかった。畜生。きゅうりとセロリとバルサミコの分量が鬼門。今の私にはハイ・レベルだった…。次回もっとシンプルなやつでリベンジいたします。捲土重来。

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8月のスープ:ジャガイモのスープ

先月の借りを返すため今回は淡白に。じゃがいもふかして、玉ねぎバターで炒めて、水を加えてマッシュして、出来上がり。完食できる喜び。それにしても見た目は魔女のままなので、来月はも少し彩り検討。

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9月のスープ:たらとじゃがいものにんにくスープ

魚界へ初進出。たらうまい。にんにくと赤唐辛子も初。奇跡的にバランスが決まってパリッとした辛さに。レシピは平野由希子『「ル・クルーゼ」で、つくりたい料理 』より。ルクルーゼじゃないけど。

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10月のスープ:サツマイモとぶりのスープ

できる限り秋っぽくしてみた。魚介2弾目はぶり。煮てしまうと前回のたらよりは渋めの味になったけど、いもの甘さと丁度良く混ざっていい感じ。残すところあと2か月。

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11月のスープ:西船式ビーフシチュー

シリコンバレー式 自分を変える最強の食事』にあった「完全無欠ビーフシチュー(いなたすぎる名前)」を下敷きに、素材と分量と調理時間を我流に。やる事多くて料理の鉄人感凄い。味はヘルシーの一言。

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12月のスープ:豚キムチ鍋

月1スープシリーズは遂に大団円…。基本辛いのは苦手だがキムチだけは別舌。ニンニク、ウェイパー、コチュジャン、と体が暖まりそうな素材の総攻撃。甘辛な仕上がりに。ベースレシピは「北欧、暮らしの道具店」から。

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道しるべとなった参考図書

「ル・クルーゼ」で、つくりたい料理

「ル・クルーゼ」で、つくりたい料理

 

 

シリコンバレー式 自分を変える最強の食事

シリコンバレー式 自分を変える最強の食事

 

 

常備菜

常備菜

 

 

 旅の途中で買った鍋

staub ココット ラウンド 18cm ブラック 40509-485(1101825)

staub ココット ラウンド 18cm ブラック 40509-485(1101825)

 

 

 

私の人生にアラン・トゥーサンが来てくれて良かった

ニュー・オーリンズ音楽の生き字引、アラン・トゥーサンが亡くなった。

逝去の知らせを聞いてまっさきに思い浮かべたのが、2013年に発売された、『Songbook』という名前のライブアルバム。タイトル通り、彼の全キャリアを通じた名曲の数々をピアノ一つで弾き語るという、幸せすぎる作品だった。

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アルバムの5曲目「Brickyard Blues」を演奏する前に、トゥーサンが喋るパートが4曲目に収録されている。アルバム全曲中、トークパートで1曲区切ってあるところはここだけ。39秒の短いトラックだけれど、とても印象的だったことを覚えている。

話の内容は、フランキー・ミラーという「スコットランドからやってきた茶髪の妙なアクセントの男(かなり意訳してます)」がいかに自分に刺激を与えたかについて。「Brickyard Blues」も含めて、多くの曲がフランキー・ミラーという大歌手に出会ったことでできた。「私の人生に彼が来てくれて良かった。その影響の一部分をここで紹介させてください。」。そしてイントロへ。

 

YouTubeでライブアルバムが録音されていた時に撮影されていた映像があった。

アルバムのライナーノーツには録音日が2009年3月1日と9月30日、場所はニューヨークのJoe's Pubと記載があって、この映像の情報を信じるならば3月1日と場所が合致するから、まさにこの喋り部分がアルバムのトークパートなんだな。

 

4:10、曲の締めくくりにトゥーサンが一言、「…フランキーミラー」とつぶやいて、お客さん大喜び。という所も一緒。


アランの喋りは噺家の枕。楽しませるのに力をかける。生粋のエンターテイナーなんだよなあ。しばらくアラン・トゥーサンの作品を聴く日々が続きます。

Songbook

Songbook