自分の名刺くらい

私の最初の作品集、『風邪をひかない』。販売開始してから1週間あまり、ちょっとだけ購入していただけました。「お陰様で」という言葉が身に染みる夜。この作品集は自営業の社長の名刺のようなものだから、喜びもひとしお。自分がゼロからつくったモノが売れたのは、実はこれで2度目。

1度目は学生の時分。撮影した抽象的な写真をコンビニでカラーコピーして、それを新聞紙の上に並べて売っていた。駅前の広場で。冬に。原価は50円で、それを1枚100~500円くらいの値付けで売る。いま思うと、よくもまあ無謀な、と思うけれど、これが意外にも結構好評だった。

いまでもよく覚えているのは、20代後半ぐらいの女性が5枚くらい買ってくれて、「いま持ち合わせがあったら全部買い占めてた。」と言ってくれたこと。そこで変な自信もつけなかったのかなんなのか、路上販売はしばらくしてやめてしまったのだけど。捨てるカラーコピーあれば拾うカラーコピーあり。

もう一つ印象に残ってるのは、並べた商品(というかコンビニのカラーコピーだ)をみてくれる人達がやけにフレンドリーだったこと。最後らへんは何度も来て一緒に売り子になってくれた人もいたり。「寒空で可愛そうに、仕事が無いんだね。」、といってお金をポケットにねじこんでくれたご高齢の女性も。

いつも路上販売を開始するまえは好奇の目のプレッシャーがあった。けど、始めてしまうとなんか高揚してくる。不思議な効果があった。そんな不思議な高揚感に似たものを、今週は少し思い出しました。買ってくれた方、ありがとう。握手を送ります。ここに訪れた方も、縁があったら是非どうぞ。

あ、「握手を送る」っていうフレーズ、『ゴッホの手紙』でヴァン・ゴッホが弟のテオに宛てた手紙の最後にきまって書く挨拶なのです。格好いい挨拶。これから毎週金曜の夜に、第1作品集『風邪をひかない』にまつわるあることないことを、とぼとぼとつぶやいていきます。

 

ファン・ゴッホの手紙

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