2017年に発表された音楽で良かったものベスト10 *まとめSpotify/AppleMusicプレイリスト付き!
こんにちは、小宇宙レコード主筆です。2017年もたくさんの音楽を浴びてきました。その中から、ナンバリングはするけれど本当はまったく順位不同なベスト10をお届けします。
2017年は周りで少しづつ、音楽配信サブスクリプションサービスを利用している同志を見かけることが多くなってきた。そんな彼/彼女(主に彼)がAppleMusicを使っているならば、臆面もなく「同志よ!」と声をかけているのですが、Spotifyなどの他サービスを利用されている方もちらほら。
そうなってくると、いろんなサブスクサービスを横断して仲間になれるような、はたまた熱中して(現実逃避ともいう)編み上げたせっかくのプレイリストをいろんなサービス間で共有できるような、そんな方法が今後流行ってくると思われる。
そういえばAmazonでリコメンド機能の肝に関わった方の著書(『アマゾノミクス データ・サイエンティストはこう考える』)に「今後のデータ社会には、個人の履歴を移す権利、というのが必要になる」というのがあって、「そうかー、流行りとかじゃなくて、権利レベルなのかー」等と、日和見な私を刺激する箇所があった。
閑話休題。それでは、2017年の私の体験的音楽論(@いずみたく先輩)をお楽しみください。
■1 w-inds. / We Don't Need To Talk Anymore
2017年1月11日発売。年の初めから今まで、めげそうになったときには聞き返す、心の強壮剤になっている。とくにめげそうな寒い日の風呂掃除の際には毎回、この歌を流しながら水を流しているような気がする。
歌無しのカラオケ版を聴くと、「引き算のデザイン」というか、ギッリギリの要素でトラックを成立させていることが分かる。ここからメロディ系やドラムトラックの音符が少しでも欠けたらつまらなくなり、またこれ以上増えても、ぼんやりとなってしまう。
その間の綱渡りの緊張感は、さながら『賭博黙示録カイジ』に出てくる「人間競馬」(カイジら債務者たちが地上8~10メートルに設置された鉄骨(全長25メートル)を渡るレース)のよう。「人間競馬」の通称は、「勇者達の道(ブレイブ・メン・ロード)」。
活動歴17年目の勇者達の道。本当に恰好いい。
■2 Perfume / If you wanna
If you wanna(完全生産限定盤)(DVD付)(スペシャルパッケージ仕様)
- アーティスト: Perfume
- 出版社/メーカー: Universal Music =music=
- 発売日: 2017/08/30
- メディア: CD
- この商品を含むブログを見る
去年の心のカンフル剤は圧倒的に彼女らの「FLASH」だったけれど、今年もやっぱり彼女らだ。表題曲の「If you wanna」も名曲だけれど、カップリング曲の「Everyday」に勇気をもらった。「あたりまえのことなんてない」日常を奨励する青い鳥ソング。
「勇気をもらう」といえば、手塚治虫『青いブリンク』の名ゼリフ、「カケルくん、勇気をあげる!」。だけれど、今年たまたまWikipediaに載っていた衝撃的な事実(「あれはただのプラセボ効果」)を知って、心が折れました。やはり自分にはPerfumeしか戻る場所がないと再確認した年だった。
PerfumeのオフィシャルYouTube、今年はやけに舞台裏やライブ、はたまた実験的な動画が多かったような。なかでも「If you wanna」からトーク、そして「Everyday」まで収録しているこの動画を、ちゃんとしたミュージックビデオよりも何度も見てしまう。
■3 クラーク内藤 / COVERS.
クラーク内藤『COVERS.』。師走モードの私の脳内に滑り込み、そのまま今年のモードを決定づけた異能ベーション。
他人様の曲と曲を掛け合わせる編集作業をマッシュアップと言う。内藤氏はそこに自分の歌唱(おそらく)を入り込ませることによって、他では聴くことができないし、真似しにくい未踏の大陸に到達した。
1曲目のフランク・オーシャン「Nikes」(2016年)をバックトラックに、二村定一が歌った版の「私の青空」(1928年)を、訥々と歌う。ざっくりと1世紀を超えたこのマッシュアップには、「時空を超えたぜ!」といった気負いは全くないし、むしろ新曲っぽい。これだけでも、内藤氏のセンスと器量、度量がひたひたと伝わってくる。
そのほか、曲目を一覧してみる。神をも恐れぬ所業振り。『進撃の巨人』のベルトルさんばりに、「悪魔の末裔が!!根絶やしにしてやる!!」と思った。が、全ての組み合わせが刺激的だし、繰り返し聴いてしまうしで、ごつい。
ふと「選曲師」という言葉が浮かんできた。そういえば、野坂昭如の小説作品『エロ事師たち』を説明した、ウィキペディアのこんな下りが、『COVERS.』を十全に説明していると思う。クラーク内藤氏は「エロ事師=選曲師」だ。
世の男どもの「エロ」を満たすため法網を潜り、あらゆる享楽の趣向を凝らし提供することを使命とする中年男の物語。「エロ事師」を取り巻く世界のどこか滑稽でグロテスクな様や猥雑な現実を、哀愁ただよう苛烈なユーモアと古典文芸的リズムの文体で綴りながら、エロティシズムの観念をアイロニックに描いている
野坂昭如氏といえば、ジブリ映画『火垂るの墓』の原作者だし、「おもちゃのチャチャチャ」の作詞家でもあるし、「マリリン・モンロー・ノーリターン」の歌い手でもある。野坂氏の膨大な仕事から、この3つだけ並べただけでも、絶妙なバランスと緊張感がある。
そんな野放図な活躍ぶりを、クラーク内藤氏の快作、『COVERS.』を聴いて思い浮かべた。トラックリストをコピペする。内藤氏の、やり方は一見過激だが、至極真っ当にバランスを取ろうとする漢振りが伝わってくる。
1.「青空(MY BLUE HEAVEN)」二村定一
2.「JUNJI TAKADA」kohh
3.「Cho Ero De Gomenne」明日花キララ
4.「天プラ」THE STALIN
5.「NO FUN」IGGY&THE STOOGES
6.「誰を怨めばいいのでございましょうか」三上寛
7.「4800日後…」METEOR
8.「シャンパンとワイン(Champagne and Wine)」OTIS REDDING
9.「さよならアメリカ、さよならニッポン」はっぴいえんど
とくに、ロカビリー時代のエルビス・プレスリー(とそれを極めた大瀧詠一)が憑依したような『Cho Ero De Gomenne』(明日花キララ)が凄い。とりあえずエルビスとキララを比較してみて欲しい。なぜこれらを一緒にしようと思ったのか。小沢昭一先輩にも聴いていただきたかった。
■4 Silva / Amor I Love You
カルリーニョス・ブラウンの慈愛に溢れた超名曲。ミルトン・ナシメントが「ブラジルの声」なら、さしずめカルリーニョス・ブラウンは「ブラジルの森進一」だろうか(なにを言っているんだ私は)。でもこの歌を聴くと、なにか「おふくろさん」が思い浮かんでくる。「おふくろさん=郷愁(サウダージ)」である。
マリーザ・モンチの名歌唱で有名なこの歌を、彼女と共作したこともあるシルヴァが、アコギ一本で弾き語る。2016年に発表したスタジオ録音作『カンタ・マリーザ・モンチ(マリーザ・モンチを歌う)』からのシングルカット。
そのマリーザ・モンチ版でコーラスメンバーが担当していた部分を観客が歌う。というか、もう最初から一緒に歌っている。サビの「アモールアイラブユー」では難しい合いの手(「フゥー!」)が入る。ここは、ちょっと尻切れトンボになりながらも、やっぱりみんなで歌う。
雰囲気は多分に違えど、やっぱり「おふくろさん=郷愁(サウダージ)」な感じがする。でもこの郷愁感には、寂しいという要素はほとんどなくて、幸せな成分が多い。カエターノ・ヴェローゾの「ヴォセ・エ・リンダ」のよう。
弾き語りついでに、今年出会った動画の中で、もっとも感動した弾き語り動画も忘れないようにあげておこう。泣ける…。
アルゼンチンはトゥクマン出身のシンガー・ソングライター、フアン・キンテーロ。
彼を含んだ、中南米の中堅を代表する名うての3人組(アンドレ・メマーリ、フアン・キンテーロ、カルロス・アギーレ)は、今年『セルペンティーナ』という名前のアルバムを出している。セルペンティーナはインドジャボク(印度蛇木)という植物の学名。根の形がヘビのようであるから、というのが名づけの一説らしい。
そのヘビにあやかって、素敵なアートワークが施された新作。ミルトン・ナシメントの「サン・ビセンテ 」が白眉。今年、その新作を携えて、キンテーロ氏とアンドレ・メマーリ氏が渋谷WWWでライブをしたときも圧巻だった。
アンドレ・メマーリ&フアン・キンテーロ於スキヤキ・トーキョー。ミルトン・ナシメントの超名曲「ポンタ・ジ・アレイア」をカバー中、「ふるさと(うさぎ追いし~)」をキンテーロ氏が歌う。日本語歌詞メモを見ながら、訥々と。泣けた。ぐっときた。あと2時間は観たかった。弾き語りもいつかは。 pic.twitter.com/KwKfWN6Ea3
— 扇谷平温(Heion) (@shouchu_record) 2017年8月30日
可愛いアートワーク(『夜の木』みたいだ!)。
- アーティスト: Andre Mehmari,Juan Quintero,Carlos Aguirre
- 出版社/メーカー: NRT
- 発売日: 2017/09/09
- メディア: CD
- この商品を含むブログを見る
■5 Simone Graziano / Snailspace
ヘビの続きはカタツムリ(Snail)。
アルバムタイトルの「Snailspace」は、「Snail's Pace」と区切れば「カタツムリのようにゆっくりとした歩み = 牛歩戦術」というにも読める。はたまた、「Snail Space」と区切れば、「カタツムリの宇宙/空間 = 殻」というようにも。とりあえず音像を。
イタリアはフィレンツェ出身の知性派ピアニスト(らしい)、シモーネ・グラツィアーノのトリオ最新作。イタリアジャズ界の「ネクスト・ジェネレーション」の一人として熱い注目を集めている(らしい)。三位一体音楽とはこれいかに。足すところなく、引くところもない。三者とも存分に働いていて、楽しそう。
作業中音楽として最高峰だし。気がつけばこれだけを聴いている。ちょっとレディオヘッドぽくもあり。
■6 Idan Raichel / Piano-Songs
イダン・ライヒェルは熱気バサラ(アニメ『マクロス7』に登場する主人公兼歌バカ)である。他は違うかも知れないけれど、少なくともこの破格のライブ盤においては。
とりあえず音像を見てみよう。
元気な和音進行、本人のキラキラした目、総立ちになって一緒に歌いだす観客。歌で何かが変わりそうな瞬間。
イスラエルはクファールサバ出身のシンガーソングライター。育ってきた音楽的、政治的な背骨は多様で多彩。でも、このライブ盤で展開している歌はどれも直球勝負。「とりあえず俺の歌を聴け!」的な。メロディがストレート過ぎて、歌詞が分からなくても、ちょっと恥ずかしくなるようなメジャー感を備えている。そしてそれがいい。
松岡修造(カレンダー)で言うならば、「次に叩く一回で、その壁は破れるかもしれない」。心の壁(ジョンレノン)を叩き続けるような、そんな快活な歌唱に魅かれる。
彼を「インドのA.R.ラフマーンと並ぶ、21世紀前半の地球における最高の作曲家の一人だと思っています」と激賞するサラーム海上氏のブログでは、ライヒェル氏の「ワールドミュージック」に対する、印象的な定義が掲載されている。孫引用させていただく。
「ワールドミュージックとは、ミュージシャンが来た土地を想起させるサウンドトラックだと思う。ボブ・マーリーはジャマイカを、サリフ・ケイタはマリを、エディット・ピアフはフランスを想起させる。僕の音楽はイスラエルを想起させる音楽だ。
子供の頃、僕はマイケル・ジャクソンの音楽を大いに楽しみました。英語がわからないままに。それからフランス語がわからないままにエディット・ピアフを聴きました。
音楽を楽しむことは君を別の場所に連れていってくれる。それから好奇心をくすぐる。僕の音楽を聴いた人々はイスラエルやテルアビブについてグーグルで調べ、facebookでイスラエル人のリスナーとコミュニケーションを始めるんだ」
Salam Unagami Nonstop - イダン・ライヒェルによるワールドミュージックの定義
■7 のん / エイリアンズ
これは凄い…。映画『この世界の片隅に』で劇的なカムバックを果たした、という枕がもういらないほど、多種多様な活動をしている能年玲奈氏こと、のん。
『LINEモバイル』のTVコマーシャルではアカペラだった。それが伴奏つきで録音されたものがシングルになった。オリジナルのキリンジ版の持つ、洒脱で厭世的なムードから一転して、決意のような雰囲気を込め直した。名カバー。ついつい最後まで聴いてしまう。
必要最低限のコーラスとチャイム、単音のリードギター。ほとんど一発録りのよう。修正も感ぜられないボーカルが、生々しく響く。試しで録音したらこれが最高だったからこれでいこう、的なシングル。終始鼻声な感じのボーカルが、頭に残る。
CMのメイキング動画がある。その途中で、キリンジの堀込氏から講習を受けている場面がある。このシングルのきっかけになった録音は(もしくはこの録音は)、その日に収録されたものなのかな。とすると、申し訳程度に入っている単音ギターソロは堀込氏なのか。ゴンチチのゴンザレス三上氏のような、はたまたウェスモンゴメリーのような、奇をてらわない、強い単音が気持ちいい。
動画の1:30部分で、彼女は「監督からたった1人のために向けて歌っている女の子という感じと、納得いっていない、怒りを表現してくれ」と指示を受けたことを話している。彼女の、本名を名乗れず「のん」という芸名に至った経緯を知ると、「監督、その指示凄いな…。」と思う。
■8 IBIBIO SOUND MACHINE / UYAI
AppleMusicが2017年に入って、プレイリストを編んでくれるようになった。AI編集のベースとしているパラメータは私の嗜好性と行動履歴のようだ。「New Music」、「Chill Out」、「Favorite」と銘打って、それぞれ毎週別の曜日に更新されるのだけれど、いまのところかなりしっくりきている。
そのなかで出会った音楽は数あれど、これは白眉。ダンス音楽、とくにクラブミュージック系は深堀していないしできないので、このアーティストに出会えてありがたい。こういうサジェスト機能の進化は、どんどんお願いしたい。
*あ、そういえば似たような進化といえば。AndoirdをOSとしたスマホでは夏ごろから歌詞が表示されるようになって、かなりいい。iPhoneではかなり前からあった。
IBIBIO SOUND MACHINEは、ロンドン生まれのナイジェリア人シンガー、イーノ・ウィリアムズをフロントとしたディスコ・バンド。アフロファンクと、ディスコ音楽、そしてエレクトロがない交ぜになった絶妙な音像はくせになる。
「IBIBIO」とは、ナイジェリアの南東部に居住するイビビオ人が使用する言語。アルバムタイトルの「Uyai(ユーアイ)」とは、イビビオ語で「美しさ」の意味のよう。
音楽もはっちゃけているけれど、ミュージックビデオも楽しい。元気でそう。
■9 Kamasi Washington / Truth
じわりわりと高まっていく14分15秒のシングル。途中からコーラスが重なっていくところは、ドナルド・バードの超名曲「ブラックディサイプル」を想起。長尺なところはマーヴィン・ゲイ「マーシー・マーシー・ミー」を思い出した。
爽快感と幸せ感の強さ。なんにしてもドラマチックで飽きさせない。初夏の宵口に最高だった。長尺のミュージックビデオも、なにか魅せられた。
ちなみにドナルド・バード「ブラックディサイプル」はこれ。久方ぶりに最高。ルパン三世のテーマとしてもいけそう。
■10 Adam Baldych / Brothers (with Helge Lien Trio & Tore Brunborg)
ACTとECM。言わずと知れたドイツを、いや、欧州を、いやさ、世界を代表する2大ジャズレーベルである(さっきwikiで読みました)。今年の裏AppleMusicトピックと言えば、この2大レーベルのカタログを聴くことができるようになったことだろうか。
ACTはもしかしたらもっと前に登録されていたのかも知れないけれど、ECMは11月頃からぽつぽつと遭遇報告があり、最近はかなりの部分が登録されているようだ(Spotifyにはもっとかも)。どちらのレーベルも、好きすぎて1枚に絞れるはずもなく。
2017年発表されたものから、あえて1曲だけ選ぶとしたなら、いまはこんな素敵な曲を。
音楽定額配信に1年間どっぷり浸かってみたのが2017年だった。明らかにたくさん聴くようになったし、聴くことができるようにもなった。でもまあ、プラットフォームに左右される部分(Apple MusicとかSpotifyとか)もある。最初からApple Musicに掲載されていない音楽は聴こえないし、気がついたら偏ったおすすめ音楽の井戸に入り込んでいる、かもしれない。
ただそれを差し引いても、昔よりは幅広く聴くようになったと思う。バランス感覚というようなものや、プラットフォーム間を行き来する能力、信頼できるキュレーターを知っておく、等々が井戸から抜け出るキーとなるんだろうな。
エンディングテーマはこれで。今年出会った弾き語りの中で、もっとも感動的だった。
今日の弾き語り:泣ける。ここにはランディ・ニューマンお得意の皮肉も、キャラ設定も、ユーモアもない。あえて言うなら、ディズニー用の外注歌を間違えて自分用にしちゃったよ、とか?ストレート過ぎるラブソングで辛い。響きわたる。https://t.co/R9OHbpKuN3
— 扇谷平温(Heion) (@shouchu_record) 2017年11月18日
長々とお付き合いくださりありがとうございました。見事に年を経るごとに長文になってきています…。師走の折、隙を見てつまみ食い程度に読んでいってください。気に入ったら広めてくださると嬉しいです。
あ、ここで紹介した音楽ですが、SpotifyとAppleMusicでまとめて聴くことができるようにプレイリストにまとめました。よかったら聴いてみてくださいー。ではでは。
■Spotifyプレイリスト: 2017年に発表された音楽で良かったもの
■Apple Musicプレイリスト: 2017年に発表された音楽で良かったもの
■2016年のベスト10
■2015年のベスト10
■2014年のベスト10
■2013年のベスト10