近未来は生産ではなく支持することで成り立つのかも知れないし、それなりの幸せ感は仮想現実の中に見出せるのかも知れないし(2017年11月27日アップデート有り)

冬休みの自由研究の時間。近未来への唐茄子屋政談かまびすしい昨今。私もそれに参加すべく、最近の気になるトピックをまとめてみました。脳内に入ってくる様々な情報を思いっきり妄想の羽根をはばたかせてこしらえた小噺です。基本的には楽観と諦観が入り混じったモードでいきます。

 

「AIが仕事を奪う」という、近未来。

 

曖昧な予測を元にした記事ばかりがあふれているけれど、こちらは珍しく固有名詞と、はっきりとした数字が出ていた。

<富国生命>AI導入、34人削減へ 保険査定を代替 (毎日新聞)2016年12月30日

ニュース系ソースはしばらくしたらリンク切れするだろうから、概要をここでも。

日本IBMのAI「ワトソン」を使ったシステムを来年1月から導入することで、人員を34人削減するというニュース。「AIのコストは、システム導入に約2億円、保守管理に年1500万円程度。一方、34人の人員削減による人件費軽減効果は年1.4億円程度と見られる。」とのこと。

で、もちろん他の民間でこれと近い規模感のある企業は、販売管理費を下げるためにがんがん採用していくだろう。資本主義だし。

 

この話だけ見ると、「うわーやべえ仕事ほんとうに無くなってるよ…!」になって、「よーし、2017年からは俺もエンジニア(*)目指すか!」となっても、それは必ずしも最適解じゃないような気がする。*でも、美輪明宏ヨイトマケの唄』の歌詞中にある「エンジニア」という言葉は古びない、ごつい。

 

なぜなら、プログラミングすることの究極目標が「効率化」である限り、それはプログラマーという職業自体の抑制でもあるから。SF的には、「神的な、なにか」をプログラミングさせとくだけさせといて、惑星中をコンピューティングパワーで把握できるようになれば、「エンジニアさん、お疲れした!」と、コンピュータにクビを切られるような感慨もある。まるで「イサクの燔祭」のように。

 

そしたら、「君たちはどう生きるか(*)」。というと、のんべんだらりとはできないけれど、そんなに目をぎらつかせる必要もそれほどない、と思う。『北斗の拳』や『マッドマックス』のような世界にはまだ。

*『君たちはどう生きるか』は、児童文学者であり雑誌「世界」の編集長も務めた吉野源三郎の小説。第二次世界大戦できな臭くなってくるころ、1937年の発刊。

 

予感としては、これから10-15年程度をなんとかやり過ごす力こそが必要なのかなあ、と。そんな感慨をもつに至ったトピックをいくつかあげる。

 

1.そんなに仕事をせずとも生活できるようになってきている

まずは大きな物語から。バラク・オバマビル・ゲイツマーク・ザッカーバーグらがこぞって激賞しているサピエンス全史』。著者ユヴァル・ノア・ハラリ氏はその続編、『ホモ・デウス(未邦訳)』でこう言う。

我々は初めて、飢餓、疫病、戦争という人類を悩ます3命題から抜け出しつつある

 

飢餓、疫病、戦争。

 

もちろんどれもが今現在も起きていて、それが主因で亡くなる人も多い。絶えることなく。でもそれらを裏返したような、

 

飽食、寿命、自殺者。

 

という原因で死ぬ数の方が、「飢餓、疫病、戦争。」よりも上回っているという(*)。

 

飽食、寿命、自殺者」が原因で死ぬ人が増えていく社会とは。物凄ーく乱暴にまとめると、前よりも、食べるための仕事をそんなにせずとも生活していけてるってことだ。むしろやり過ぎている部分があったり、資源の分配が最適化されていなかったりの方が、問題のような。

 

*例えば原著Homo Deus: A Brief History of Tomorrow』で引用されていたソース(p401)を一つあげるとこんなのが: Obesity killing three times as many as malnutrition

類似のソースでは、未来派野郎、ピーター・ディアマンテス世界が改善したことのデータを集め続けているサイトも、分かりやすい。

 

2.おおかたの仕事は機械と人口知能におまかせの時代になる

そして、丁度よいことに(?)、おおかたの仕事はコンピュータがやってくれることになりそうだ。井上智洋『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊』はそこのところを物凄く分かりやすく説明している。現状の人口知能はどの辺まで進んでいて、具体的に何年代にそんな時代が本格的に訪れるのか。

 

「機械と人口知能におまかせの時代」になるというのはどういうことか。著書の中でも触れられていた、「機械と人口知能が人間を代替する経済構造」について示された図を引用させてもらいます。

 

f:id:gati:20160224114832j:plain

引用元: 人工知能が社会に与えるインパクト インフォグラフィックでわかりやすく解説#02 | Catalyst

 

さらに氏がごついのは、そうやって現状と近未来を示すだけではなく、きちんと明確な財源と数字を出して、そんな時代をしのぐ作戦を提示していること。ただ、井上氏のいうベーシックインカム導入が早めにすんでいようがいまいが、経済構造が人工知能を中心としたものへ移るのは否定できない。そこでは一番しのぎの立つ職業はやっぱり、人口知能を管理するプログラマーなのだろうか?

 

3.コンピュータ化の大命題は「効率化」なので、プログラマーも減るよね?

これに関してこんな小噺をひとつ。

この話はほんとうに落語みたいで好き。そしてひとしきりに笑ったあとに寒気がくる見事なディストピア小噺。でも、清水亮氏がズバッと指摘するように「コンピュータの進化とは即ち、効率化・高速化」であって、それが進めば進むほど、様々な業務の自動化もどんどん進み、それを管理する人員は減るような気がする。

 

研究者と剛腕プログラマーのみが残るメジャーリーグへ。

*ちなみに神的な力を持つプログラマーDead Programmerと呼ばれるらしい 

 

4.生産することじゃなくて、支持することで生活できるように?

本筋に戻ります。ここからは、さらに妄想の霧が濃くなってくる。

「1.そんなに仕事をせずとも生活できるようになってきている」

+

「2.おおかたの仕事は機械と人口知能におまかせの時代になる」

という条件が整ってくると、これまで1万年以上は続けてきた、「生産する」という、社会を成り立たせてきた前提条件が変わるのかもしれない。

 

その代わりには、「支持」がくるんじゃないかなあ。

ここでいう「支持」は、「ものすごく薄い投資の積み重ね」。「ものすごく薄い」の程度は、「今までは投資するのに手数料の方がかかっちゃって手が付けられなかった」範囲。だから、その支持=投資の対象はアーティストでも、プロジェクトでも、政党でも、なんならモノでも。

 

そう思わせられたきっかけは「ブロックチェーン」という技術と、それを使用しているアーティスト支援サービスプラットフォーム、「ピアートラックス」。

 

 「ブロックチェーン」についてはググればそこら中に説明があふれるので、ここではシステムについて説明しないし、たぶん自分も吞み込み切れていない技術なので深入りできない。ざっくりというと、

「大きな組織で管理する必要がない、ネット上の信用取引システム」

のようなもの。

 

なんじゃそりゃ?と思う方のために、物凄く分かりやすくブロックチェーンを紹介し、かつそれが社会に与えるインパクトを明確に説明した動画を持ってきました。 

 

まあ、動画を見ても見なくても大丈夫。妄想のまま話を進めます。

 

ブロックチェーン」とは、

「大きな組織で管理する必要がない、ネット上の信用取引システム」

のようなもの。

 

「大きな組織で管理する必要がない」から、取引にかかる手数料がいらない(*)。

例えばクレジットカードを使用すると、店舗がクレジット会社に手数料を支払う。これが無くなるとすると、いままでは手数料の方がかかっちゃって商売にならないものも商売になる。*ブロックチェーンをまわすエネルギー等諸々の問題はありまくる。ここではとりあえず見ないことにする。

 

信用の裏付けはシステム自体で完結するので、「大きな組織で管理する必要がない」。 

例えば「みうらじゅん賞」等を発行して、みうらじゅん氏が亡くなっても、彼が誰かに賞をあげたという事実はネット上で固定される。固定された事実はハッキングが論理的にできないから、第3者がその信用を担保しなくてもいいのだ(*)。

*少なくともいままで第3者に担保されていたどの信用よりも、はるかに信頼性があるという。ハッキングの込み入った話は、ここではとりあえず見ないことにする。

 

その技術を使用した「ピアートラックス」。いろいろとできそうなサービスだけれど、一番重要だと感じたのは、彼らが提供している「Notes」という概念。

 

「Notes」は、いわゆる「ファンクラブ会報の進化形」のようなもの。ピアートラックス上でアカウントをとったアーティストにはNoteが発行される。アーティストが好きになったら、ファンはそのNoteを買ってもいい。そうすると、いろいろの優先特典を受けられるというわけ。

 

「進化形」といったのは、ファン同士Noteで取引ができて、Noteは客観的な数値を元に価値が動くのだ。Noteは限定した数しか買えない。だから、Noteはアーティストが人気になればなるほど価値があがって、その価格差でファンも生活できるかも知れない。さながら投資のように(というか投資だ)。

*こうなると、「本当のファンならどんなに価値があがってもNoteを売らない云々」という話になってきそう。これ株投資よりも、より切実な話になるなきっと。

 

「支持」が「投資」になっているのがピアートラックス」のNotesという概念。

 

そこにブロックチェーン技術が入ることによって、ものすごく薄い投資の積み重ね」が可能になっているというわけ。ここではたまたまピアートラックス」という一つのサービスのことだけを取り上げたけれども、技術と法的なハードル次第で、どんどん広がっていきそうだ。

 

なによりピアートラックス的な仕組みがいいなあと思うのは、誰もがなにかの達人にならなきゃいけないわけではないということ。「達人or死」という悪夢的な未来じゃなくて、ゆるっとした支持の積み重ねで、周りよりふわっとした存在になれるということ。経済的にも(そういう期待も込めて)。

 

アップデート(2017年4月9日) 

ピアートラックス」は現時点ではサイトが落ちているよう。SNS関連も更新が止まっているし。先行き不安になってきたけれども、類似サービスは結構ある。ので、ここではブロックチェーン技術を使って音楽産業を変えようとしているサービス、機構、団体をリストアップしておきます。順次追加予定。

ujo Music

dotblockchain Music (dotBC)

Mycelia

bpi (BRITISH PHONOGRAPHIC INDUSTRY)

MUSIC2020

アップデート(2017年11月27日) 

「Brave」ブラウザ、YouTuberへのビットコインでの投げ銭が可能に - ITmedia NEWS

 ビットコインの送金自体が、かなり高くなってしまった。ので、送金コストがほぼない他のサービスに代替されれば、という感じ。

 

未来派野郎はみんな読むWIRED誌の創刊編集長、ケヴィン・ケリー氏のことばに、「千人の忠実なファン」というのがある。「千人の忠実なファン」、つまり、アーティストのためにたくさんお金を使ってくれる人が千人いれば、それで生活できるのでは?という提案だ。

 

彼のことばをもじっていえば、「千人の忠実なファン」ではなく、「100人のアーティストのファンになり、少しずつ投資すれば」、作家や達人でなくとも生きていけるということ。そういう期待も込めた目で、ブロックチェーンやらAIやらなんやらが諸々のハードルを下げていくことを、楽観的に見ていく。

 

5. 「もともと特別なオンリーワン」と幸せを感じながら、VR世界で暮らす?

で、そうした「4.生産することじゃなくて、支持することで生活できるように」なったとしたらどうなるのか。

SMAP世界に一つだけの花』の歌詞にある「NO.1にならなくてもいい もともと特別なOnly one」という神話が現実味を帯びてくる。

NO.1にならなくてもいい」のはピアートラックス的な仕組みで、「生産ではなく支持すること」で生活を成り立たせるから。でも、それだけじゃやりがいが足りない。やっぱり自分でなにかしたい。それが認められたい。

 

では、「もともと特別なOnly one」と感じるには?

 

「現代の魔術師」の字を持つ落合陽一氏はこう書いている。

 

(中略)ハコスコやGoogleカードボードに見られるように、誰でも安いVR装置を購入することを可能にした。この装置は、今まであった貧者のヴァーチャルリアリティを更新しうる。ひとりひとりが低コストで別の世界を目指すことができるようになるからだ。

 

ここで持ちうる大雑把な仮説としては、共同幻想を失った我々は、共同幻想が回帰しうる10万人程度の世界を7万個作り出し、70億人を分割することで暮らしていくのではないだろうか? その中で我々は現実に帰属する時間と、各々の現実に帰属する時間を住み分けながらうまくやっていくのではないだろうか。

 

FUZE「僕らは2016年のことをどんな風に思い出すだろうか? 楽観的シンギュラリティ、貧者のVR、魔法の世紀へ

例えばSF作家フィリップ・K・ディックの代表作品(のほんの一つ)、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』 にでてきたエンパシーボックスなんて、これに近い。そのハコの取手をつかむと、全世界のハコの取手を握る人たちと同じ感覚を味わうことができる。

落合氏は分かりやすいトピックとしてVRをだしているけれど、「現実に帰属する時間と、各々の現実に帰属する時間を住み分けながらうまくやっていく」ことが出来さえすれば何でもいいのかも知れない。その「うまくやっていく」ことのなかには、脳生理学的に幸せを感じさせちゃったり、気がついたら『マトリックス』的に延髄にプラグを刺している状態になっちゃっているのかも知れない。

 

6. ユートピアでもディストピアでもなく

こういう近未来派野郎自大的な話をしだすと、すぐにディストピア的な傾向になるのはきっと育ってきた環境のせい。『火の鳥』や『AKIRA』や『攻殻機動隊』や…。自分のディストピア的妄想をただすために、名文を二つ引用して、今年の冬の自由研究を終えたい。

 しかしユートピアディストピアも、我々が向かうべき方向ではない。テクノロジーはむしろ我々を「プロトピア」に向かわせる。より正確に言うなら、われわれはすでにそこに着いている。

 プロトピアは目的地と言うより、ある状態に<なっていく>ことを指す言葉だ。つまりプロセスだ。プロトピアの状態では、物事は日々良くなっていくが、それはほんのちょっとだけでしかない。漸進的でゆるやかな進歩だ。プロトピアという言葉の「プロ」という部分は、プロセスや進歩(プログレス)から来ている。このわずかな進歩は劇的なものではなく、興奮するようなものはない。プロトピアでは新に生み出される利便性と同じぐらい新しい問題も起きるので、このわずかな進歩は見過ごされやすい。

 

ケヴィン・ケリー『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』21p.

 

人工知能は,人間のように情緒を感じるようになりますか?」と尋ねられたとき,こう答えるようにしている。

人工知能が私たちの生活に入り込むとき,私たちから情緒を感じる能力が失われるから,それほど差を感じなくなるでしょう,と。

 

『日立評論 2016年4月号 特集 人工知能という希望 AIで予測不能な時代に挑む』の「一家一言 新井 紀子 近似的解決と真の解決」より。

 

 あ、もう一つ。これも呪文のように唱えます。

  

 

 

御年賀イヌ絵

毎年のことながら、賀状の絵を描きました。イヌ絵。

 

絵心(と字心も)が無さすぎて、ここまで来るのに何十枚と描き直し描き直し。

だけれど、その作業工程も面白く。

 

戌年。犬の年。

 

今年はもう一寸このブログを更新できるような予感(だけ)がしています。

気晴らしついでに寄っていってもらえると嬉しいです。

 

本年もよろしくお願いします。

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2017年に発表された音楽で良かったものベスト10 *まとめSpotify/AppleMusicプレイリスト付き!

こんにちは、小宇宙レコード主筆です。2017年もたくさんの音楽を浴びてきました。その中から、ナンバリングはするけれど本当はまったく順位不同なベスト10をお届けします。

2017年は周りで少しづつ、音楽配信サブスクリプションサービスを利用している同志を見かけることが多くなってきた。そんな彼/彼女(主に彼)がAppleMusicを使っているならば、臆面もなく「同志よ!」と声をかけているのですが、Spotifyなどの他サービスを利用されている方もちらほら。

そうなってくると、いろんなサブスクサービスを横断して仲間になれるような、はたまた熱中して(現実逃避ともいう)編み上げたせっかくのプレイリストをいろんなサービス間で共有できるような、そんな方法が今後流行ってくると思われる。

そういえばAmazonでリコメンド機能の肝に関わった方の著書(『アマゾノミクス データ・サイエンティストはこう考える』)に「今後のデータ社会には、個人の履歴を移す権利、というのが必要になる」というのがあって、「そうかー、流行りとかじゃなくて、権利レベルなのかー」等と、日和見な私を刺激する箇所があった。

あ、音楽配信サービスでSpotifyにもし加入されている方。どうぞ私のアカウントをフォローしてやってください。美味しいプレイリストも揃えてますので…(『泣いた赤鬼』風インビテーション)。

 

閑話休題。それでは、2017年の私の体験的音楽論(@いずみたく先輩)をお楽しみください。

 

■1 w-inds. / We Don't Need To Talk Anymore

We Don't Need To Talk Anymore

We Don't Need To Talk Anymore

 

 2017年1月11日発売。年の初めから今まで、めげそうになったときには聞き返す、心の強壮剤になっている。とくにめげそうな寒い日の風呂掃除の際には毎回、この歌を流しながら水を流しているような気がする。

歌無しのカラオケ版を聴くと、「引き算のデザイン」というか、ギッリギリの要素でトラックを成立させていることが分かる。ここからメロディ系やドラムトラックの音符が少しでも欠けたらつまらなくなり、またこれ以上増えても、ぼんやりとなってしまう。

その間の綱渡りの緊張感は、さながら『賭博黙示録カイジ』に出てくる「人間競馬」(カイジら債務者たちが地上8~10メートルに設置された鉄骨(全長25メートル)を渡るレース)のよう。「人間競馬」の通称は、「勇者達の道(ブレイブ・メン・ロード)」。

活動歴17年目の勇者達の道。本当に恰好いい。

 

■2 Perfume / If you wanna

If you wanna(完全生産限定盤)(DVD付)(スペシャルパッケージ仕様)

If you wanna(完全生産限定盤)(DVD付)(スペシャルパッケージ仕様)

 

 去年の心のカンフル剤は圧倒的に彼女らの「FLASH」だったけれど、今年もやっぱり彼女らだ。表題曲の「If you wanna」も名曲だけれど、カップリング曲の「Everyday」に勇気をもらった。「あたりまえのことなんてない」日常を奨励する青い鳥ソング。

「勇気をもらう」といえば、手塚治虫青いブリンク』の名ゼリフ、「カケルくん、勇気をあげる!」。だけれど、今年たまたまWikipediaに載っていた衝撃的な事実(「あれはただのプラセボ効果」)を知って、心が折れました。やはり自分にはPerfumeしか戻る場所がないと再確認した年だった。 

PerfumeのオフィシャルYouTube、今年はやけに舞台裏やライブ、はたまた実験的な動画が多かったような。なかでも「If you wanna」からトーク、そして「Everyday」まで収録しているこの動画を、ちゃんとしたミュージックビデオよりも何度も見てしまう。

 

■3 クラーク内藤 / COVERS.

 クラーク内藤‏『COVERS.』。師走モードの私の脳内に滑り込み、そのまま今年のモードを決定づけた異能ベーション。

他人様の曲と曲を掛け合わせる編集作業をマッシュアップと言う。内藤氏はそこに自分の歌唱(おそらく)を入り込ませることによって、他では聴くことができないし、真似しにくい未踏の大陸に到達した。

1曲目のフランク・オーシャン「Nikes」(2016年)をバックトラックに、二村定一が歌った版の「私の青空」(1928年)を、訥々と歌う。ざっくりと1世紀を超えたこのマッシュアップには、「時空を超えたぜ!」といった気負いは全くないし、むしろ新曲っぽい。これだけでも、内藤氏のセンスと器量、度量がひたひたと伝わってくる。

そのほか、曲目を一覧してみる。神をも恐れぬ所業振り。『進撃の巨人』のベルトルさんばりに、「悪魔の末裔が!!根絶やしにしてやる!!」と思った。が、全ての組み合わせが刺激的だし、繰り返し聴いてしまうしで、ごつい。

ふと「選曲師」という言葉が浮かんできた。そういえば、野坂昭如の小説作品『エロ事師たち』を説明した、ウィキペディアのこんな下りが、『COVERS.』を十全に説明していると思う。クラーク内藤‏氏は「エロ事師=選曲師」だ。

世の男どもの「エロ」を満たすため法網を潜り、あらゆる享楽の趣向を凝らし提供することを使命とする中年男の物語。「エロ事師」を取り巻く世界のどこか滑稽でグロテスクな様や猥雑な現実を、哀愁ただよう苛烈なユーモアと古典文芸的リズムの文体で綴りながら、エロティシズムの観念をアイロニックに描いている

 

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

野坂昭如氏といえば、ジブリ映画『火垂るの墓』の原作者だし、「おもちゃのチャチャチャ」の作詞家でもあるし、「マリリン・モンロー・ノーリターン」の歌い手でもある。野坂氏の膨大な仕事から、この3つだけ並べただけでも、絶妙なバランスと緊張感がある。

そんな野放図な活躍ぶりを、クラーク内藤‏氏の快作、『COVERS.』を聴いて思い浮かべた。トラックリストをコピペする。内藤氏の、やり方は一見過激だが、至極真っ当にバランスを取ろうとする漢振りが伝わってくる。


1.「青空(MY BLUE HEAVEN)」二村定一
2.「JUNJI TAKADA」kohh
3.「Cho Ero De Gomenne」明日花キララ
4.「天プラ」THE STALIN
5.「NO FUN」IGGY&THE STOOGES
6.「誰を怨めばいいのでございましょうか」三上寛
7.「4800日後…」METEOR
8.「シャンパンとワイン(Champagne and Wine)」OTIS REDDING
9.「さよならアメリカ、さよならニッポン」はっぴいえんど


とくに、ロカビリー時代のエルビス・プレスリー(とそれを極めた大瀧詠一)が憑依したような『Cho Ero De Gomenne』(明日花キララ)が凄い。とりあえずエルビスとキララを比較してみて欲しい。なぜこれらを一緒にしようと思ったのか。小沢昭一先輩にも聴いていただきたかった。



 

■4 Silva / Amor I Love You

Amor I Love You (Ao Vivo)

Amor I Love You (Ao Vivo)

 

カルリーニョス・ブラウンの慈愛に溢れた超名曲。ミルトン・ナシメントが「ブラジルの声」なら、さしずめカルリーニョス・ブラウンは「ブラジルの森進一」だろうか(なにを言っているんだ私は)。でもこの歌を聴くと、なにか「おふくろさん」が思い浮かんでくる。「おふくろさん=郷愁(サウダージ)」である。

マリーザ・モンチの名歌唱で有名なこの歌を、彼女と共作したこともあるシルヴァが、アコギ一本で弾き語る。2016年に発表したスタジオ録音作『カンタ・マリーザ・モンチ(マリーザ・モンチを歌う)』からのシングルカット。

そのマリーザ・モンチ版でコーラスメンバーが担当していた部分を観客が歌う。というか、もう最初から一緒に歌っている。サビの「アモールアイラブユー」では難しい合いの手(「フゥー!」)が入る。ここは、ちょっと尻切れトンボになりながらも、やっぱりみんなで歌う。

雰囲気は多分に違えど、やっぱり「おふくろさん=郷愁(サウダージ)」な感じがする。でもこの郷愁感には、寂しいという要素はほとんどなくて、幸せな成分が多い。カエターノ・ヴェローゾの「ヴォセ・エ・リンダ」のよう。

  

弾き語りついでに、今年出会った動画の中で、もっとも感動した弾き語り動画も忘れないようにあげておこう。泣ける…。

アルゼンチンはトゥクマン出身のシンガー・ソングライター、フアン・キンテーロ。

彼を含んだ、中南米の中堅を代表する名うての3人組(アンドレ・メマーリ、フアン・キンテーロ、カルロス・アギーレ)は、今年『セルペンティーナ』という名前のアルバムを出している。セルペンティーナはインドジャボク(印度蛇木)という植物の学名。根の形がヘビのようであるから、というのが名づけの一説らしい。

そのヘビにあやかって、素敵なアートワークが施された新作。ミルトン・ナシメントの「サン・ビセンテ 」が白眉。今年、その新作を携えて、キンテーロ氏とアンドレ・メマーリ氏が渋谷WWWでライブをしたときも圧巻だった。

 

可愛いアートワーク(『夜の木』みたいだ!)。

Serpentina セルペンティーナ

Serpentina セルペンティーナ

 

 

■5 Simone Graziano / Snailspace 

Snailspace

Snailspace

 

ヘビの続きはカタツムリ(Snail)。

アルバムタイトルの「Snailspace」は、「Snail's Pace」と区切れば「カタツムリのようにゆっくりとした歩み = 牛歩戦術」というにも読める。はたまた、「Snail Space」と区切れば、「カタツムリの宇宙/空間 = 殻」というようにも。とりあえず音像を。

イタリアはフィレンツェ出身の知性派ピアニスト(らしい)、シモーネ・グラツィアーノのトリオ最新作。イタリアジャズ界の「ネクスト・ジェネレーション」の一人として熱い注目を集めている(らしい)。三位一体音楽とはこれいかに。足すところなく、引くところもない。三者とも存分に働いていて、楽しそう。

作業中音楽として最高峰だし。気がつけばこれだけを聴いている。ちょっとレディオヘッドぽくもあり。

 

■6 Idan Raichel / Piano-Songs

Piano-Songs

Piano-Songs

 

イダン・ライヒェルは熱気バサラ(アニメ『マクロス7』に登場する主人公兼歌バカ)である。他は違うかも知れないけれど、少なくともこの破格のライブ盤においては。

 

とりあえず音像を見てみよう。

元気な和音進行、本人のキラキラした目、総立ちになって一緒に歌いだす観客。歌で何かが変わりそうな瞬間。

イスラエルはクファールサバ出身のシンガーソングライター。育ってきた音楽的、政治的な背骨は多様で多彩。でも、このライブ盤で展開している歌はどれも直球勝負。「とりあえず俺の歌を聴け!」的な。メロディがストレート過ぎて、歌詞が分からなくても、ちょっと恥ずかしくなるようなメジャー感を備えている。そしてそれがいい。

松岡修造(カレンダー)で言うならば、「次に叩く一回で、その壁は破れるかもしれない」。心の壁(ジョンレノン)を叩き続けるような、そんな快活な歌唱に魅かれる。

彼を「インドのA.R.ラフマーンと並ぶ、21世紀前半の地球における最高の作曲家の一人だと思っています」と激賞するサラーム海上氏のブログでは、ライヒェル氏の「ワールドミュージック」に対する、印象的な定義が掲載されている。孫引用させていただく。

 

ワールドミュージックとは、ミュージシャンが来た土地を想起させるサウンドトラックだと思う。ボブ・マーリーはジャマイカを、サリフ・ケイタはマリを、エディット・ピアフはフランスを想起させる。僕の音楽はイスラエルを想起させる音楽だ。


子供の頃、僕はマイケル・ジャクソンの音楽を大いに楽しみました。英語がわからないままに。それからフランス語がわからないままにエディット・ピアフを聴きました。


音楽を楽しむことは君を別の場所に連れていってくれる。それから好奇心をくすぐる。僕の音楽を聴いた人々はイスラエルやテルアビブについてグーグルで調べ、facebookイスラエル人のリスナーとコミュニケーションを始めるんだ」

 

Salam Unagami Nonstop - イダン・ライヒェルによるワールドミュージックの定義

 

 

■7 のん / エイリアンズ

エイリアンズ

エイリアンズ

  • のん
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 これは凄い…。映画『この世界の片隅に』で劇的なカムバックを果たした、という枕がもういらないほど、多種多様な活動をしている能年玲奈氏こと、のん。

LINEモバイル』のTVコマーシャルではアカペラだった。それが伴奏つきで録音されたものがシングルになった。オリジナルのキリンジ版の持つ、洒脱で厭世的なムードから一転して、決意のような雰囲気を込め直した。名カバー。ついつい最後まで聴いてしまう。

必要最低限のコーラスとチャイム、単音のリードギター。ほとんど一発録りのよう。修正も感ぜられないボーカルが、生々しく響く。試しで録音したらこれが最高だったからこれでいこう、的なシングル。終始鼻声な感じのボーカルが、頭に残る。

CMのメイキング動画がある。その途中で、キリンジの堀込氏から講習を受けている場面がある。このシングルのきっかけになった録音は(もしくはこの録音は)、その日に収録されたものなのかな。とすると、申し訳程度に入っている単音ギターソロは堀込氏なのか。ゴンチチゴンザレス三上氏のような、はたまたウェスモンゴメリーのような、奇をてらわない、強い単音が気持ちいい。

動画の1:30部分で、彼女は「監督からたった1人のために向けて歌っている女の子という感じと、納得いっていない、怒りを表現してくれ」と指示を受けたことを話している。彼女の、本名を名乗れず「のん」という芸名に至った経緯を知ると、「監督、その指示凄いな…。」と思う。

 

■8 IBIBIO SOUND MACHINE / UYAI

UYAI

UYAI

 

AppleMusicが2017年に入って、プレイリストを編んでくれるようになった。AI編集のベースとしているパラメータは私の嗜好性と行動履歴のようだ。「New Music」、「Chill Out」、「Favorite」と銘打って、それぞれ毎週別の曜日に更新されるのだけれど、いまのところかなりしっくりきている。

そのなかで出会った音楽は数あれど、これは白眉。ダンス音楽、とくにクラブミュージック系は深堀していないしできないので、このアーティストに出会えてありがたい。こういうサジェスト機能の進化は、どんどんお願いしたい。

*あ、そういえば似たような進化といえば。AndoirdをOSとしたスマホでは夏ごろから歌詞が表示されるようになって、かなりいい。iPhoneではかなり前からあった。

IBIBIO SOUND MACHINEは、ロンドン生まれのナイジェリア人シンガー、イーノ・ウィリアムズをフロントとしたディスコ・バンド。アフロファンクと、ディスコ音楽、そしてエレクトロがない交ぜになった絶妙な音像はくせになる。

「IBIBIO」とは、ナイジェリアの南東部に居住するイビビオ人が使用する言語。アルバムタイトルの「Uyai(ユーアイ)」とは、イビビオ語で「美しさ」の意味のよう。

音楽もはっちゃけているけれど、ミュージックビデオも楽しい。元気でそう。

 

■9 Kamasi Washington / Truth

Truth

Truth

  • Kamasi Washington
  • ジャズ
  • provided courtesy of iTunes

 じわりわりと高まっていく14分15秒のシングル。途中からコーラスが重なっていくところは、ドナルド・バードの超名曲「ブラックディサイプル」を想起。長尺なところはマーヴィン・ゲイマーシーマーシー・ミー」を思い出した。

爽快感と幸せ感の強さ。なんにしてもドラマチックで飽きさせない。初夏の宵口に最高だった。長尺のミュージックビデオも、なにか魅せられた。 

ちなみにドナルド・バード「ブラックディサイプル」はこれ。久方ぶりに最高。ルパン三世のテーマとしてもいけそう。

 

■10 Adam Baldych / Brothers (with Helge Lien Trio & Tore Brunborg)

Love (with Helge Lien Trio & Tore Brunborg)

Love (with Helge Lien Trio & Tore Brunborg)

  • Adam Baldych
  • ジャズ
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 ACTとECM。言わずと知れたドイツを、いや、欧州を、いやさ、世界を代表する2大ジャズレーベルである(さっきwikiで読みました)。今年の裏AppleMusicトピックと言えば、この2大レーベルのカタログを聴くことができるようになったことだろうか。

ACTはもしかしたらもっと前に登録されていたのかも知れないけれど、ECMは11月頃からぽつぽつと遭遇報告があり、最近はかなりの部分が登録されているようだ(Spotifyにはもっとかも)。どちらのレーベルも、好きすぎて1枚に絞れるはずもなく。

2017年発表されたものから、あえて1曲だけ選ぶとしたなら、いまはこんな素敵な曲を。 

 音楽定額配信に1年間どっぷり浸かってみたのが2017年だった。明らかにたくさん聴くようになったし、聴くことができるようにもなった。でもまあ、プラットフォームに左右される部分(Apple MusicとかSpotifyとか)もある。最初からApple Musicに掲載されていない音楽は聴こえないし、気がついたら偏ったおすすめ音楽の井戸に入り込んでいる、かもしれない。

ただそれを差し引いても、昔よりは幅広く聴くようになったと思う。バランス感覚というようなものや、プラットフォーム間を行き来する能力、信頼できるキュレーターを知っておく、等々が井戸から抜け出るキーとなるんだろうな。

エンディングテーマはこれで。今年出会った弾き語りの中で、もっとも感動的だった。

 

長々とお付き合いくださりありがとうございました。見事に年を経るごとに長文になってきています…。師走の折、隙を見てつまみ食い程度に読んでいってください。気に入ったら広めてくださると嬉しいです。

 あ、ここで紹介した音楽ですが、SpotifyとAppleMusicでまとめて聴くことができるようにプレイリストにまとめました。よかったら聴いてみてくださいー。ではでは。

 

Spotifyプレイリスト: 2017年に発表された音楽で良かったもの

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Apple Musicプレイリスト: 2017年に発表された音楽で良かったもの

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■2016年のベスト10 

■2015年のベスト10

■2014年のベスト10

■2013年のベスト10

 

新曲お披露目: 夜の木

小宇宙レコード主筆です。

久方ぶり(ではない)新曲お披露目。

最近はこんな感じを歌でやっております、よろしくどうぞ。

夜の木

 

夜の木は いつも黙って
黙って君を 見下ろしている
こだわりを 捨てることから
始めよう

Baby Baby 夜の底
うなだれていないで お願い
Baby Baby 今日からは
新しい日々を

 

新曲お披露目: ブラックバード

無沙汰にしています、小宇宙レコード主筆です。

久方ぶりの新曲お披露目。

最近はこんな感じを歌でやっております、よろしくどうぞ。



「ブラックバード

 

バイバイ果てのブラックバード
バイバイ果てのブラックバード
こんな風景が目の前にあるなら

 

バイバイ果てのブラックバード
君への手紙はもう届かない
だけどあてにしてる心は

 

穏やかな暮らしが
あたり一面に吹きすさぶ
圧倒的な関係のなかで

 

バイバイ果てのブラックバード
バイバイ果てのブラックバード
こんな風景が目の前にあるなら

 

バイバイ果てのブラックバード
君への手紙はもう届かない
だけどあてにしてる心は

 

一人一人歩いていく
二人二人ちがう道を

 

バイバイ果てのブラックバード
君への
もう届かない
だけど歩きつづける