ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンが一番辛かった時代を乗り越えたときの話: 『ラブ&マーシー』

無沙汰にしています、小宇宙レコード主筆です。最近はどんなに遅く寝ても5時半に目が覚めてしまうのが目下の悩みです。ナポレオンでしょうか。実績はなんにもないのですが。

 

さてブライアン・ウィルソンの伝記(的)映画『ラブ&マーシー』。8月の封切り翌日には観覧していたのだけれど、いろいろ思い出すことが多過ぎて筆が完全に止まってました。まだ上映しているところもあるようなので未見の方は是非。NETFLIXやAmazonビデオでも配信されるのかな…。


お、ブライアン知らない?ではここで簡単にひとつ。

 

彼こそは泣く子も笑うアメリカの夏に欠かすことのできない偉大なるポップ・バンド、ビーチ・ボーイズのリーダー兼メインの作曲家であります。名曲はたくさんありますが、全て短めなので1日で聴くことができます。

 

「Surfin USA」とか「Surfin' Safari」とか「Surfer Girl」とか「Surf's Up」とか。サーフィンばかりですね。TUBEの大先輩と思ってもらえれば間違いないです、とりあえず最初のうちは。まあブライアン自身はサーフィン全然できないらしいのですが。なんだっていーじゃない。

アメリカの代表的音楽家、20年間のひきこもり生活へ

で。私は中学生の頃から長きに渡り鬱々としていた時期がありまして(思春期ともいう)、行き場の無い青春ライドの逃避先にブライアンをずっと聴いていたのです。なんたって彼はこじらせの大先輩。60年代から70年代にかけて、ブライアン、どんどんこじらせていきます。

 

サーフィンできないのにサーフィン関連曲でヒット連発するも、元ミュージシャン兼バンドのマネージャーだった父との確執(曲の権利勝手に売られちゃったり)、メンバーとのすれ違い(のちに訴訟合戦に)、自信作が世間に理解されない(『ペット・サウンズ』と『スマイル』)等々で、徐々に蝕まれていく精神。

 

プレッシャーからかある日を境に自宅にひきこもり、酒とドラッグ、過食におぼれて肥満化、挙句の果ては頼りにしていた精神科医・ユージン・ランディに稼ぎをもっていかれる等々の、「道徳の教科書でやっちゃいけないって書いてあった」ことは大体実践されていたようです。それも20年間も。アメリカの自由凄え。

 

これが。

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こうなります。孤独な男の話、できそうですね。

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こもり期間中にブライアンはいまの嫁さんとなるメリンダと出会います。メリンダは当時高級車の販売員。ブライアンを支配する悪の精神科医(としておこう)ユージン・ランディと戦っていく様は、この映画の一つの見所。

 

そんな彼女の助けもあって、ブライアンはソロ・アーティストとして涙の復活を果たしたわけなのですが。映画ではそんな一番辛かった時代と、それを乗り越えた話が描かれています。うーん、予告編を見るだけでも泣けてくるじゃないか…。

 

 「72歳で中2病?」、素敵じゃないか!

その後の人生の話。

 

20年間のひきこもりからカムバックを遂げるだけでも十分なのに、そこからのブライアンの勢いが凄い。ソロ・アルバムを連発し、当時理解されなかった名盤『スマイル』の完全版を録音し直して世界ツアーをしたり(来日してましたね)、メンバーともよりを戻し(たりまた離れたり)、メリンダともこどもをたくさん作ったり…無双の活躍ぶり。

 

最近のブライアンとメリンダ。完全に尻にしかれている系ですね。お2人とも幸せそう。

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画像引用元は『ラブ&マーシー』の公式サイトより。

 

ただ、まあ、正直、「生きてさえくれればもうなんでもいいよあんたは。」という心情なのです私は。最近また働き過ぎているような気がして心配…。だって今年発売した最新アルバムのタイトルが『ノー・ピア・プレッシャー』ですよ?「周りのプレッシャーなんかないよ!」って…あんたまだそんな中学生みたいなこと言ってるのか72歳だろう。

ノー・ピア・プレッシャー

ノー・ピア・プレッシャー

 

でも相変わらず腹にくる名曲を提供してくれます。『ノー・ピア・プレッシャー』に収録されている「One Kind of Love」、これもいいなあ。公式ミュージック・ビデオでは映画の名場面と現在のブライアンが交互にでてきて、ちょっと泣けますね。

 

「One Kind of Love」はメリンダに捧げる歌なんだろうな。歌詞は「僕はたくさんの時間を無駄にしてきた。でもいまは生き直している。君が僕の打ちひしがれていた心にハーモニーを取り戻してくれたんだ。」といった具合。

というわけで映画『ラブ&マーシー』は「ビーチ・ボーイズブライアン・ウィルソンが一番辛かった時代を乗り越えたときの話」なのでした。前知識が全然なくとも、監督の編集具合が絶妙なので楽しめると思います。

 

参考書

ブライアン・ウィルソン自叙伝』 

ブライアン・ウイルソン自叙伝―ビーチボーイズ光と影

ブライアン・ウイルソン自叙伝―ビーチボーイズ光と影

 

 一説によるとブライアンのひきこもり時期に書かれたこの書物、精神科医・ユージン・ランディがかなり関わっているらしい(映画でもちらっとだけその話がでてくる)。そんなわけで「自叙伝」と銘打ってても、どこまで事実なのかは分らないですが、読み物としてもむちゃくちゃ面白いです。

ブライアン本人の独白なのか、それともユージンに向精神薬を大量投与された結果の文章なのか、はたまた別のゴースト・ライターの手によるものなのか…。長いですが、私は高校生活最後の夏に読了しました。長期休暇のおともにでもどうぞ。

*自分が購入した当初は表紙が異なり、帯もすんごいのが巻かれてました、曰く、「アメリカという病」。あんまりな帯ですが内容はまったくその通りでしたね、ええ。

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おまけ

素敵すぎたブライアン・ウィルソン伝記映画『ラブ&マーシー』に捧げるプレイリスト(Apple Music)

復活したあとのブライアン・ウィルソンのソロ活動に焦点をあてて、プレイリストをこしらえました。

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酷暑をサバイブするためのApple Musicプレイリスト、はじめました。

Apple Musicで酷暑をサバイブするためのプレイリストを作りました。ぐでたまの気持ちが良くわかります。夏と共に生きろ!

 

夏場のサウンドトラック避暑

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1曲目はこちら。

 

 

ワンルームで夏フェス開催

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1曲目はこちら。

 

 

亜熱帯夜に効く処方箋。お気楽極楽リラクゼーション・ミュージック

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1曲目はこちら。

 

 

Apple Musicで本気で踊れるプレイリストを作ってみました。ネタ元の紹介付き

巷で蠢いている音楽ストリーミングサービスすなるものにすっかりはまってしまいました。で、Apple Musicで本気で踊れるプレイリストを作ってみましたので、もしApple Musicを使うことができる環境にいる方はぜひぜひ。

(あ、Apple Musicいまは無料期間ですが、期間が終わったら後腐れなくすっぱりやめるのには設定しておくと便利です。私は続ける可能性濃厚ですが…)

 

Apple Musicプレイリスト

小粋に小躍り

 

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自分で作っている歌はそんなに明るくないので、ここはもう一つハッピーではちきれんばかりの選曲をしてやろうじゃないか、と意気込んでみました。根っこにある思想はアメリカの伝説的なDJ、ウルフマン・ジャックのこんなお言葉。


ここでは選んだ曲に一言ずつの注釈と、曲が収録されているアルバム(一部シングル盤)を載せます。よかったら深堀してみてください~。 

1. Mel Torme - Route 66 (Live)

泣く子も笑うジャズ・ボーカル御三家の一人、メル・トーメ。こんな凶暴な「Route 66」(ナット・キング・コール版がかなり有名)があったなんて!とびっくりした音源でした。本プレイリストを作ろうと思い立ったきっかけ。パンク・ミュージックみたいな狂犬スキャットと難し過ぎるコール&レスポンスも聴き所。痺れるのは他の曲の節を引用しているところ。1:33-38の「セインツ・ゴー・マーチン・イン」(ルイ・アームストロングで有名)と、2:44-47の「ソルト・ピーナッツ」(ディジー・ガレスピーで有名)。一人口DJ。 

 2. Pointer Sisters - Salt Peanuts

「ソルト・ピーナッツ」つながりでこれを。4姉妹の凶暴ぶりもさることながら、ウッドベース、ピアノ、ドラム、と皆さん他の人のこと全然考えずにやりたいように5分間ずっとはっちゃけてます。ごついです。

That's A Plenty

That's A Plenty

 

 3. Harry Belafonte - Man Smart (Woman Smarter)

野茂英雄のテーマ HIDE~O』の元ネタであるところの「バナナ・ボート・ソング」で有名な、みんな大好きハリー・ベラフォンテ。あれはノベルティ・ソングであってだな本当のお姿は…ということも無い。太陽の届かない惑星でもこの方がいれば暑くなる、20世紀を代表するエンターティナー。

Calypso/Belafonte Sings of the

Calypso/Belafonte Sings of the

 

 4. Bobby Troup - Take Me out to the Ball Game

Bobby Troup氏の作になる「Route 66」は、圧倒的にナット・キング・コール版が名を馳せてしまったのですが。小粋な歌いっぷりはむしろボビーさんの方が上かも。

Bobby Troup and His Stars of Jazz (Mono Version)

Bobby Troup and His Stars of Jazz (Mono Version)

 

 5. Tony Bennett & Count Basie and his Orchestra - Ol' Man River

 永久にクールな僕たちの伯父さん、トニー・ベネット。最近もレディ・ガガとデュエットアルバム出されてましたけど、この頃も凄いっす。出だしから中間部分あたりまでのボンゴ・プレイも圧巻。ボンゴ担当していたCandido Camero氏、94才でまだ現役だという!

In Person (Original Album Plus Bonus Tracks 1959)

In Person (Original Album Plus Bonus Tracks 1959)

 

 6. Vince Guaraldi Trio - Fascinating Rhythm 

ここいらでちょっとだけ一休み。5で紹介したアルバム『In Person』にも収録されていた、「Fascinating Rhythm」のインスト版。1920年代(!)にガーシュイン兄弟がミュージカル『Lady, Be Good』(主演はフレッド・アステア!) のためにつくった曲から。フルでやるとこれまたけったいな調子のプログレ曲なのですが、カバーする方々はいいとこどりをすることが多いですね。で、これまた人を喰ったようなギターアレンジが素敵すぎる。ヴィンス・ガラルディさんはスヌーピー・ジャズの人。 

Vince Guaraldi Trio (Remastered)

Vince Guaraldi Trio (Remastered)

 

 7. Nat King Cole - Lover Come Back to Me! 

演奏を務めるビリー・メイ楽団のアレンジが格好良すぎて吐きそうになる。1952,3年頃の録音らしい。モナリザなんて聴いている場合じゃないよ! 

Songs by Nat King Cole (Mono Version)

Songs by Nat King Cole (Mono Version)

 

 8.Tamba Trio - So Danco Samba

ブラジルの粋人ピアニスト、ルイス・エサ氏が1962年に結成したトリオ。アルゼンチンのアカセカ・トリオを聴くといつも彼らを思い出す…。三人組、といっても構成は全然違うけれどアレンジの変態ぶり(褒めてます)には共通するものがある気が…。 

Tamba Trio

Tamba Trio

 

9. Frank Sinatra - Ring-A-Ding-Ding

楽しくて、ノリがよくて、で歌詞をみるとなんだか泣けてくる。ポップソングの全てを体現しているシナトラ御大の油の乗り切った壮年時代。歌詞がとにかくいいんだ。

人生は無価値なもの、
あるのは大いなる退屈だけ。
所が突然君は頭を叩いてみて、
ふらついている自分を確かめてみるんだ。
彼女のため息で君が感じるのは、
まるで紐につながれたおもちゃのようだって。
それで君の心臓は:
ドキドキと、
ドキドキと、
ドキドキと鳴るのさ。

引用元:

Ring-A-Ding-Ding 日本語訳

Ring: A: Ding Ding! + I Remember Tommy (Remastered)

Ring: A: Ding Ding! + I Remember Tommy (Remastered)

 

10.Buddy Rich - The Beat Goes On

酔っ払った12歳の実の娘に歌わすBeat Goes On。舌足らずな歌唱と一寸乱れぬブラス隊の絡まりが凄いのです。娘さんのCathy Richは今も歌っていて、すっかり姉御肌。

Big Swing Face

Big Swing Face

 

 

 

思い出のマーニーの思い出のマーニーの思い出の…

思い出のマーニー [Blu-ray]』を観た直後の私のつぶやきの興奮ぶりは「見られたくない卒業アルバムの写真」状態になっていて、かなり恥ずかしい。

 

ちょっと(いや相当)勢いこんでいるけれど、いまもざっくりとした印象の方向は変わらない。どしーんと落涙のストライクゾーンに入り込んできた(広いです)、いい作品だった。プロット、演出、そのほか云々に関しては割愛することにして、マーニーを振り返って浮かんだことを、ひとつふたつ。

 

ひとつめ。『マーニー』の最後の決定的なネタばれ場面で演出されている「世代が続いていることの、当たり前さと不思議さ。」について(映画見ないと分らないはず…分っちゃったら平にご容赦を。平に平に。)。それを見て思い出したのは、こんな文章。

 

ある日パン生地をこねているとき、ふと思った。いつから人類はこんなことをやっているのかしら。こんなことを考えるうち、過去には、パンをこねて焼いてきた女たちの、滔々たる系譜があり、今その末尾に私もつらなっていることに気がついた。私という一回性の現象も、その系譜という連続性のなかにあるという発見であった。喜びが沸きあがった瞬間、そのときが私の出発になった。

 

舟田詠子『パンの文化史』講談社文庫版 P3

 

「私は輪の外側の人間。私は私が嫌い。」と近年のマナーらしい(?)鬱屈した不安を抱える主人公、杏奈。輪の内側か外側か。最終的には本人が決めるしかしかない、最後にどうするか。で、そこからぶわああっと転回する最終シーンを見て、あ、『パンの文化史 (講談社学術文庫)』の冒頭じゃんこれ、と思った次第。

 

「世代が続いていることの、当たり前さと不思議さ。」について、この絵のことも思い出した。エルンスト・H・ゴンブリッチ『若い読者のための世界史(上) - 原始から現代まで (中公文庫)』の冒頭の挿絵。 

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著者が25歳のときに、「イルゼという実在の少女(後の妻)に語りかけるような形」で綴られたという世界史の冒頭。途方もないむかしむかしのことを表現するのに使った、鏡合わせの世界。ここでほぼ無限に連なっていく人の姿にあわせて、系譜もずっとつづいているんだよ、と。さしずめ「思い出のマーニーの思い出のマーニーの思い出の…」と杏奈の子孫(ができたとしたら)が語りついでいったら、のごとく。

 

のこりの一つ。マーニーは「ひと夏の体験」系としての系譜としても連なるなあ、、立派な金字塔を打ち立てたなあと…。それも脳内にとっかかりを残す、甘酸っぱく苦い系の。古いのからあげていくと。

 

『思い出のマーニー』はかなりSF入っていたけれど、こちらはサスペンスだった。無敵の映画。

 1997年に発売されたセガ・サターンのゲームソフト。といっても映像はなく、オーディドラマで要所要所の選択肢を選ぶだけ、の激渋なゲームだったけれど、忘れられない。いまwikiで見返していたら音楽は鈴木慶一、エンディングテーマは、矢野顕子「ひとつだけ」と分った、凄い。

リアルサウンド風のリグレット

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  この中では一番新しいアニメ。でも原作は一番古い、1967年。時をこえてる。

時をかける少女 通常版 [DVD]

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あ、あとマーニー主題歌のPV、素晴らしく最小限な作りでおすすめです。作曲者本人が来日したときの滞在先ホテルで撮ったんかこれ、予算ないんだなと思わせながらも。

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