2014年12月の音楽振り返り記事で、「まだCDも聴いている1年でした。ただ、インターネット上で出会う音楽もそうとう多くなったことも事実。ある日タガが外れたら一気にドカーっと風景が変わる予感はある なあ。」と書いていて、その、「ドカーっ」が来た1年でした。今年は実質的な音楽配信 サブスクリプション サービス元年だったなあ。AWA 、LINE MUSIC、Apple Music、Google Music、それにくわえて、映像系も色々ありましたね。Netflix、Amazonプライム ビデオ、等々。それでまあ、結構Apple Musicにお世話になっているのだけど、ここではとりあえずはCDでも聴くことができる作品を中心に書きます。
「フォーキーなあいつが帰ってきた!」と巷で噂になった1枚。しかしとっくりと中身を覗いてみると、もはやフォークを飛び越えてグレゴリアン聖歌のようなメロディがバンジョー を肴にひたすらと続く。古ぼけた写真のジャケットが示すように、これはどこかに置いて枯れた物語なのかなあ、と。
■2 Donnie Fritts / Oh My Goodness
ドニー・ フリッツ72歳、4枚目の新作。声が泣いている、で、こちらも泣けてくる。オーマイグッドネス。おやおや、私の良心、一番良い部分ははどこへ行った。良いことも悪いことも、色々あった。石が水に洗われてちょっとずつ形を変えていくように、そんなあれこれに削られて研ぎ澄まされた声。このアルバムはそんな声がひたすらに主人公。支えるストリングスも素晴らしい、こんな優しいのが終始続くのか。ジョニー・ キャッシュのアメリカンシリーズが好きな方なら間違いない。というか、自然にこのレインボウ・ロードにたどり着いているはず。
■3 盛島貴男 / 奄美竪琴
視界がぼやけてくる演奏。65歳でデビューする奄美の海賊。奄美竪琴の制作と販売、弾き方の指南までを奄美大島 で続ける、独立自営の人。どの画像を見ても「半袖UネックTシャツ+作業ズボン 」の身なり(アルバムのジャケ写も!)。ジョブズ やザッカーバーグ に並ぶ「自分だけのドレスコード を持つ巨星」の列に加えたい。ちなみに販売元のウサトリーヌ・レコード。日本のウェイン・ショーター (と僕は思っている)、石田寛和を中心とするジャズプロジェクト、trance katz(トランスカッツ)を擁するレーベルとして結構前から知っていたので、その奇妙な縁が嬉しい。
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■4. Jeff Lynne 's ELO / Alone in the Universe
グラフィックデザイナー長岡秀星 が描いていた孤独な宇宙船が少年の前に立ち戻るジャケットからしてずるい。ジェフ・リン曰く 、「音楽は人生に強力な影響を及ぼすんだ。1つのいい曲があれば、人はこの宇宙で孤独感をずっと味わずに済む。僕はそういう曲を作りたいんだ。」。
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下は今年の6月に亡くなられた長岡秀星 の仕事をまとめた記事。ウェブマガ ジンPitchfolk等で書いている音楽批評家のNate Patrin氏の手によるものの、翻訳。冷静に振り返っているけれど、底に流れる熱いものがビシビシ伝わってくる文章。
■5. Vinicius Cantuaria / Vinicius canta Antonio Carlos Jobim
「ヴィニシウス、ジョビンを歌う」。セルソ・フォンセカ がギター、で沢田穣治がコントラバス 、これ以上なにを望んだらいいのやら。もともと大人の音楽だったジョビンがさらに大人に。夜もいよいよ深まる。
■6. Vance Gilbert / Nearness Of You
私のお気に入りの弾き語り名手。去年からFacebook でフォローしているんだけど、結構頻繁に自宅で弾き語りしている動画を投稿してくれて嬉しい。「When a Man Loves a Woman」を追悼でやってくれたときは涙腺が崩壊しました。新作はジャズ・スタンダード弾き語り。アルバムタイトルの「Nearness Of You」が最高。試聴はこちら から。
■7. Menahem Pressler / Mozart : Piano Sonatas
ジャケット写真を見てください。どうですかこの破顔の笑顔。もうね、お爺ちゃん萌えですよこれは。Apple Musicでずっと彼の演奏を聴いていると、不思議と短調な曲も哀しい気分に陥らず、すっきりと聴こえる。92歳の弾くモーツァルト 。下に掲載したPVの最後でプレスラー爺さんは云う:「あなたのなさっていることを愛し、そこに魂を込めなさい」。これってNetflixで久方ぶりに観た『ニュー・シネマ・パラダイス 』にも通ずる。事故で盲目になった映写技師アルフレード が、青年になった主人公トトと今生の別れをするときに、トトの耳元でかぼそく、少しだけ諭すように放つこんな言葉:
自分のすることを愛せ 子供のとき映写室を愛したように
では泣けるPVをどうぞ。
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インターネッツ が結んだ奇跡の二人組。そろそろ「NHKみんなのうた 」に取り上げられるに違いない違いない。詳細は愛に溢れている販売元の新作紹介記事「yojikとwanda、『フィロカリア』を聴く前夜。 」を熟読玩味してください。
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アルバム発売記念のライブ@神保町試聴室にも行ったのだけれど、これがとんでもなくソウルフルだった。「フィロカリア」とは「美への愛」というのが語義らしいけれど、ライブを見たらなんてことはない、「フィロカリア」の「フィ」は「フィリー・ソウル 」の「フィ」だった。丁々発止のyojikとwanda 、2人の掛け合いはあきれたぼういず のようだった。家族で楽しむバラエティ番組(つまりちょっと昔の紅白歌合戦 )のように笑いあり涙あり熱狂ありの2時間半ちょい過ぎだった。
■9. Justin Bieber / Purpose
紅白歌合戦 もすっかり大衆性を失ってきたこの時代に、「2010年代のエルビス 」の光輪と重荷を背負うのは彼しかいないでしょう。あ、エルビス の部分はマイケルでも、プリンスでも、ポップスターがあてはめられればなんでもいいです。「What Do You Mean?」、いい歌だなあ。
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■10: Bob Dylan / Shadows in the Night
ただただ、好き。ディランによる正しいシナトラ・カバー集。ますます冴えわたる猫ダミ声も最高潮。カラオケの採点機にかけたならアベレージ60点も超えないだろうが、英国ではチャート1位ですから。いかに客観性といわれるものがあてにならないかの証明でもあり、日々成長していくアルゴリズム との闘いでもある(言い過ぎ)。夜に影は映らない。師走感が高ぶるこの歌でお開きとしましょうか。
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長々とお付き合いくださりありがとうございました。時期も丁度良いのではてな の今週のお題 「マイベストエントリー」として投稿してみます。気に入ったら広めてくださると嬉しいです。
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